巨悪と闘う正統ジャーナリズム

 西岡研介マングローブ講談社)」は危険を冒して巨悪と闘う正統的なジャーナリズムの結晶だろう。
 あらためて感じるのは旅客運送産業は「乗客」「安全」を人質にとることができる産業だということだ。だからこそ、革マル派はあのようにJR首脳部を翻弄し、震撼させることができるのだ。
 もう一つは革マル最高指導者・松崎明があのように腐敗するのは当然の流れだったのだろうということだ。それは松崎たちが国鉄民営化不可避と判断したとき、と同時に、JR首脳が国労と対決するにあたって動労(松崎たち)と手を結んだとき。このときから松崎の腐敗は必然だったのだと思う。
 普通の労組ならここでただ単に反抗の牙を抜かれ、従順になり存在感をなくすもの。松崎がそうならなかったのは革マル派の最高指導者として革命の看板を下ろすわけにはいかなかったからだ。それは革マル派が権力謀略論の論調を強め、警察から阪神・少年Aの実家まであらゆる団体、人の盗聴にいびつなまでの情熱を注いだことと照応しているように感じられる。
 JRと手を結び、日本の労働運動の頂点に立つという絵を描いたということだが、必要な資金を得るためには癒着と腐敗は避けられず、均衡を破り勢力拡大を図るにはお得意の暴力的、謀略的方法に頼らざるを得ず、少しでも良心を持つ活動家なら疑いと反発しか抱けないような、運動としては停滞した状況に陥らざるを得なかったということだろう。
 もしかしたら JRは松崎がそこまで腐敗して自滅するのを待っていたのか。だとしたら忍耐強いことだが、決して賢いことではない。彼の今後の自滅のしかたによっては自らの腐敗もありったけ暴露される恐れがきわめて大きいからだ。
 

マングローブ―テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実

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