2009-01-01から1年間の記事一覧

「脱貧困の経済学」(飯田泰之・雨宮処凛、自由国民社)の素晴らしさと限界

本書はいろいろ示唆的な記述があるので抜き書きしておく。87ページ 「小泉、橋本、経団連」は不況のときに構造改革をした、という意味で最悪・・・元日銀総裁の速水優氏とか与謝野氏は「構造改革をやっているのに不況を放置した」・・・構造改革がなければ…

「必要なのはデフレ対策ではなくて、構造改革」なのか?

最近の週刊ダイヤモンド(ネット版)掲載の論説に「必要なのはデフレ対策ではなく、構造改革」とあった。 しかし底辺層が失業と低賃金に苦しむ現実を知っているならば、こんなことは言えないはずだなのだが・・・。 論者は構造改革をやらなければ救われない、非…

【イスラム原理主義」という用語の学問的敗北

マフムード・マムダーニ「アメリカン・ジハード」(書評はのちほど)を読んで以来、「イスラム原理主義とは何か」ということがずっと心にひっかかっている。 20年ほど前、トルコ・シリア・イラン・パキスタン・インドのムスリム居住地区・フィリピンのミンダ…

「アメリカは正気を取り戻せるか」と「アメリカン・ジハード」が指し示すもの

「アメリカは正気を取り戻せるか」(ロバート・B・ライシュ、東洋経済新報社)の感想から連想したことなどを。 さて、以下、「ラドコン(Radcon)」というのは「ラディカル・コンサバティブ(radical conservatives)」の略称で、よく言われるネオコンとほぼ同…

お坊ちゃまに庶民の願いは察知できない

あるベテラン個人タクシーが「最近はお客さんに声もかけられなくなった。下手をすると絡まれる」「事業者の笑顔がない。昔は個人タクシーでよかったと想えるときがあった」と話していた。 そう、たしかに世は殺伐としている。理由はそう複雑なものではない。…

山本穣司「累犯障害者」再論—振り込め詐欺天国の日本

同書を読んでいると、あのように他愛ないほど簡単にひっかってしまう振り込め詐欺の被害者は高齢者のみならず軽度の知的障害者もそうではないのかという疑いがおのずと湧いてくる。さらには金の引き出し役にもそのような人々が重宝されているのではないだろ…

「日本国の正体」と清水潔「遺言」

長谷川幸洋の『日本国の正体』は、長く官僚の代弁者のような役割を演じてきた記者が、今頃になって官僚は記者をエージェントに仕立て、意のままに扱うようなことを言っても「何をいまさらカマトトぶって」としらけざるを得ないし、そのような批判であればア…

社会を見る目を根底からくつがえす山本穣司「累犯障害者」

山本穣司の「累犯障害者」を読むと、重度ではない障害者が福祉の範ちゅうに入ることができず、どこからもサポートされることなく犯罪を犯し、障害者年金を組織的に巻き上げられ、聾唖者がより弱い聾唖者から搾取し、出所しても、犯罪を犯したせいで親族縁者…

構造改革をめぐる見取り図

ここで自らの覚書のために大きい見取り図を記しておく。 官僚の天下り、特殊法人の増大、地方への補正予算のばら撒き、業界と行政がグルになった業界保護政策などなどを垣間見ていると、構造改革、規制改革の手は緩めてはならないと考えるが、かといってあら…

優れた経済学者の冷静な指摘

竹森俊平は「1997年」において、住専問題で農林系金融機関が、自分たちに税金が投入されたら責任問題になるとして交渉の席に着かず、公的資金を投入しても経営責任を追わなかった事、それがのちの不良債権問題処理において公的資金投入に国民が忌避感を…

巨悪と闘う正統ジャーナリズム

西岡研介「マングローブ(講談社)」は危険を冒して巨悪と闘う正統的なジャーナリズムの結晶だろう。 あらためて感じるのは旅客運送産業は「乗客」「安全」を人質にとることができる産業だということだ。だからこそ、革マル派はあのようにJR首脳部を翻弄し、…

「日本国の正体」(長谷川幸洋 講談社)感想

「日本国の正体」(長谷川幸洋 講談社)感想 「専務理事政策」「『自分は表面に出ない。あくまで舞台裏で物事を動かす』というのが『できる官僚』の鉄則である」など官僚の生態について興味深い指摘が多数書かれている。これらは実践的に役立つ情報だ。また…

「増補 民営化という虚妄」(東谷暁 ちくま文庫)の虚妄ぶり

規制改革、規制緩和の妥当性を説く著作を意識して読んだきたたので、逆の考えから書かれた書物も読む必要があると考えたが、これは耐え難いものがある。 著者は民営化を徹底的に批判しており、規制改革もボロカスにくさしている。私は規制改革のマイナス面、…

本山美彦と「1997年—世界を変えた金融危機」の竹森俊平

本山美彦の一連の書物は、ガンジーの言う「弱者の立場に立つ」あるいは「強者がつくる歴史に耐えて現場の歴史を書く」という立場から、正確かどうか不明なウェブからも広く引用がなされている。そこに描き出されるのは戦争や金融の世界における米国のまがま…

山地悠紀夫「私は生まれてくるべきではなかった」

「死刑でいいです」池谷孝司著・共同通信社 「累犯障害者」の読後もそうだが、刑務所の入る人達の中に障害者が少なからずいるのだということを意識しなかったのは迂闊だった。 死刑を宣告され、本人が早期を希望したからか分からないが09年7月に処刑され…

「世界経済同時危機」(原田泰)日本経済新聞

「世界経済同時危機」(原田泰)日本経済新聞 32〜33ページ 原田によれば、BIS規制の悪用が今回の金融危機の原因のかなり大きな部分を占めていた。 たとえば銀行がつくった資産運用会社Structured Investment Vehicle(SUV、ストラクチャード・インベストメ…

「構造改革論の誤解」( 野口旭+田中秀臣、東洋経済新報社)

「構造改革論の誤解」( 野口旭+田中秀臣、東洋経済新報社) 規制緩和という問題を考えるにあたってはきわめて重要な書物だ。(以下、同書から抜粋) 「バブル崩壊後の日本経済には、さまざまな構造問題の存在が指摘されてきたが、その多くは、じつは本来の…

どちらにもそれなりの理がある規制緩和派と批判派の言い分

内橋克人、本山美彦、伊東光晴、東谷暁といった規制緩和、市場原理主義、構造改革論に批判的な著書を読む一方で、岩田規久男、原田泰、竹森俊平、増田悦佐など、いわゆる市場原理主義者ではないが、いわゆる「経済学」にのっとった理論を展開する学者たちの…

逃げた中谷、血祭りの竹中

1月29日のJ-CASTニュースによると「かんぽの宿」オリックス売却問題 竹中平蔵氏と鳩山総務相が論争」という状況になっているという。そういえば竹中は久米宏の「テレビってやつは」や田原総一郎の番組にも出ていたようだ。ようするに彼は弁明に追われてい…

問題は本当にいずれは元にもどるのかということ

米国のバルブ景気こそが高品質・高付加価値のトヨタやソニーの生産販売計画を支えていたことが今や明白になった。 逆にいえば今回の世界的なバブル崩壊はトヨタの世界販売計画だけでなくソ連など共産世界の崩壊後、グローバリズムで繁栄を謳歌した資本主義社…

何が労働者派遣法の改良をはばむのか

「WEDGE 」09年2月号で東京大学の水町勇一郎准教授は「(国の労働政策にお墨付きを与える労働政策審議会は)正社員を代表とする連合や大規模産別の役員が中心だ。非正社員を容易に雇用調整の対象とすることができる法制度も、こうした一部の代表者の話し合…

金子勝っていいんですか。

(法大教授)の本が売れている。「世界金融危機 」(岩波ブックレット)は書店の売れ行きベストテンに入っているのを目にする。 しかし私は金子氏にはある種のうさんくささを感じる。ある特色ある主張をするのはよいのだが、だとすればその正しさを明確にする…

「マーケット・メカニズム」に思想なんてあるのか—「資本主義はなぜ自壊したのか」評への補遺

中谷巌氏はその著書「資本主義はなぜ自壊したのか」で「マーケットメカニズムの思想」そのものを問題視した。「マーケットは経済活動における『民主主義』そのものなのである。そうした見事な民主主義の装いを持ったマーケットの仕組みがあるから、結果的に…

 二冊の経済本—「資本主義はなぜ自壊したのか」と「小さな政府を問い直す」

懺悔するかつての「規制緩和の旗手」 「資本主義はなぜ自壊したのか」(集英社インターナショナル)で、著者の中谷巌氏はソニーの社外取締役として欧米の経営者らと接した際の印象として「『エリートは一般大衆と違うのだから、高い報酬を受け取るのは当然だ…