「日本国の正体」と清水潔「遺言」

 長谷川幸洋の『日本国の正体』は、長く官僚の代弁者のような役割を演じてきた記者が、今頃になって官僚は記者をエージェントに仕立て、意のままに扱うようなことを言っても「何をいまさらカマトトぶって」としらけざるを得ないし、そのような批判であればアウトサイダーたる週刊誌記者が書いた「遺言」(清水潔著、新潮社)の方がはるかに強烈な批判となっている。長谷川氏も同書を読めば忸怩たるものを覚えざるを得ないだろう。
 だが安倍内閣に深く食い込んだ筆者が改革の後退に警鐘を鳴らす次のような箇所はたいへん説得力がある。
「以上のように、小泉以降、歴代政権は郵政民営化、政策金融改革、財政再建地方分権道州制それに公務員制度改革と、さまざまな政策課題をてがけてきた。これらは別個の問題であるように見えるが「霞ヶ関」の扱いこそが真の争点であったことは、もうお分かりいただけたと思う。 
 成長率・金利論争が提起した増税問題に比べればその後の政策金融改革や地方分権、・道州制公務員制度改革はずっと分かりやすい。いずれも霞ヶ関官僚の天下りと権力の源泉である予算配分に制限を加えるテーマである。だからこそ、霞ヶ関はこれらの改革の進展に猛烈に抵抗した。
 抵抗どころか、麻生政権になると、経済危機対応を大義名分にして、小泉時代に方針が決まった日本政策投資銀行商工中金の完全民営化を先送りする法案まで提出した。霞ヶ関とそれに同調する勢力による完全な反動、改革の巻き返しが進んでいるのだ」(76〜77ページ)
 
 民主党政権になってそもそも改革の本丸・郵政民営化が逆戻りし始めている。公務員制度改革や政策金融改革、地方分権などの進展には注目したいが、元官僚を日本郵政の社長に据えるなど官僚組織と妥協、馴れ合いに向かう方向が見えてきている。妥協と改革ストップへの道筋を歩み出しているように思えてならない。

桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)

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