規制改革ー公平と効率について

尖閣問題からー市場主義と国家主義

尖閣問題についてはその後、衆参予算委理事らが海保の船と漁船の衝突に至るビデオを視聴して、記者取材に「ピューときてゴーン」とか「体当たり」「逃げ損ない」などと答える(朝日新聞夕刊)という、茶番劇の上塗りのような状況を迎えている。 事態は、ロシ…

金融危機の後始末ーモラルハザードは織り込み済み?

資本主義と共産主義と、どちらが優れた体制かという問いはもう終わったことになっている。ただ経済危機が訪れると、資本主義批判や否定の本がタケノコのように簇生してくる。最近は言うまでもなく2008年秋のリーマンショックの時。中谷巌などは「資本主…

手放しで勧める岩田規久男の「『不安』を『希望」に変える経済学」

〈追記〉題に「手放しで」と書いてしまったが、撤回する。それは著者の岩田氏がどうだというわけではない。学ぶべきところ多い真摯な経済学者だと思う。 いずれ別に書きたいが、経済学者だからといって万能なわけではなく、ある問題(たとえば領土問題や人種…

起源は違えど、結局はー市場化の波が足下を浸す

先月、「規制緩和の是非再論−ウォルフレンが16年前に出した「宿題」はどうなったか?」で、 「ウォルフレンが正しければ、いま私たちが直面している問題のパースペクティブは、戦前あるいはさらに遡って、江戸時代辺りに植え付けられたお上に従順な日本人…

藤田和恵さん、この報告は安易すぎないか−「公共サービスが崩れてゆく  民営化の果てに」

【追記】私は下記で、藤田氏が「しわ寄せは官僚にではなく末端に」向かっているのを批判していることに対し、「このような思考パターンこそ、弱者をタテにとる官僚の思うつぼではないか」と論難したが、今は、仮に官僚の思うつぼだとしても、「民事法務協会…

規制緩和の是非再論−ウォルフレンが16年前に出した「宿題」はどうなったか?

オランダ人ジャーナリストのカレル・ヴァン・ウォルフレンは「日本/権力構造の謎」(上・下、ハヤカワ文庫、1994年初版発行)で日本の急激な経済成長の秘密として、通産省(現・経産省)が産業政策の司令塔になっていたからだと書き、そこに日本の特殊性のキ…

営々と続く官僚主義との闘い—「恐慌は日本の大チャンス」(高橋洋一著、講談社)

【追記】高橋洋一氏ふくめ主流派経済学者が、社会主義イデオロギーや革命という論点を無視して、日本の官僚主義の非効率さを非難するロジックをそのまま社会主義国に当てはめて、「資本主義の方が効率的なのだから社会主義より高度な体制だ」とするのは粗雑…

「リバタリアン宣言」(蔵研也著、朝日新書)−「右」と「左」でなぜか同じ見解。でも内実は・・・

【追記】中島徹「財産権の領分」を読み、リバタリアニズムが持つ非人間性−弱者がリバタリアンとして生き、犠牲にならざるを得ない残酷ーについてあらためて思うところがあり、下記を書いた時点より批判的であることを付け加えておく。 (本文ここから) 前か…

神の見えざる手—もっと早く知っておけばよかったこと

前の投稿で岩田規久男氏の著作を紹介したので、この際。 多様な考えが存在するということを否定的に言うと、多様な偏見が存在するということであり、それぞれの「偏見」には-絶対的な判断基準はないが-「よい偏見」と「悪い偏見」が存在するということだろう…

よく考えよう―規制改革自体が悪なのか、そのやり方の問題なのか

経済学者・岩田規久男氏の著作には、依然としてこの社会で共有されるようになったとは言い難い、安易な規制緩和批判に対する鋭い反論がつづられている。 たとえば、電力会社の地域独占を排して規制緩和することに大いにブレーキをかけることになってしまった…

覚え書きーだらだら書いてきたこのブログは何を目指しているのか

思うところあって、自分のブログを整理しつつ読み返してみたが、延々と規制改革問題ーそれも効率と公平の問題をめぐって書いている。両者はもともと片方を追求すればもう片方が犠牲になる「トレードオフ」の関係にあるそうなので、私はいつまでも論じ続ける…

なんでこんなに違うのかー伊藤元重「危機を超えて すべてがわかる『世界大不況』講義」

経済学を体系的に勉強したことのない人間が経済学者やエコノミストの著作について喋々するというのは考えてみればなかなか大胆な行為なのだろうが、私自身がいつのまにかそれをやってしまっている。高等学校高学年クラスで学ぶ数式が羅列されたら私はついて…

「脱貧困の経済学」(飯田泰之・雨宮処凛、自由国民社)の素晴らしさと限界

本書はいろいろ示唆的な記述があるので抜き書きしておく。87ページ 「小泉、橋本、経団連」は不況のときに構造改革をした、という意味で最悪・・・元日銀総裁の速水優氏とか与謝野氏は「構造改革をやっているのに不況を放置した」・・・構造改革がなければ…

「必要なのはデフレ対策ではなくて、構造改革」なのか?

最近の週刊ダイヤモンド(ネット版)掲載の論説に「必要なのはデフレ対策ではなく、構造改革」とあった。 しかし底辺層が失業と低賃金に苦しむ現実を知っているならば、こんなことは言えないはずだなのだが・・・。 論者は構造改革をやらなければ救われない、非…

「日本国の正体」と清水潔「遺言」

長谷川幸洋の『日本国の正体』は、長く官僚の代弁者のような役割を演じてきた記者が、今頃になって官僚は記者をエージェントに仕立て、意のままに扱うようなことを言っても「何をいまさらカマトトぶって」としらけざるを得ないし、そのような批判であればア…

構造改革をめぐる見取り図

ここで自らの覚書のために大きい見取り図を記しておく。 官僚の天下り、特殊法人の増大、地方への補正予算のばら撒き、業界と行政がグルになった業界保護政策などなどを垣間見ていると、構造改革、規制改革の手は緩めてはならないと考えるが、かといってあら…

優れた経済学者の冷静な指摘

竹森俊平は「1997年」において、住専問題で農林系金融機関が、自分たちに税金が投入されたら責任問題になるとして交渉の席に着かず、公的資金を投入しても経営責任を追わなかった事、それがのちの不良債権問題処理において公的資金投入に国民が忌避感を…

「日本国の正体」(長谷川幸洋 講談社)感想

「日本国の正体」(長谷川幸洋 講談社)感想 「専務理事政策」「『自分は表面に出ない。あくまで舞台裏で物事を動かす』というのが『できる官僚』の鉄則である」など官僚の生態について興味深い指摘が多数書かれている。これらは実践的に役立つ情報だ。また…

「増補 民営化という虚妄」(東谷暁 ちくま文庫)の虚妄ぶり

規制改革、規制緩和の妥当性を説く著作を意識して読んだきたたので、逆の考えから書かれた書物も読む必要があると考えたが、これは耐え難いものがある。 著者は民営化を徹底的に批判しており、規制改革もボロカスにくさしている。私は規制改革のマイナス面、…

本山美彦と「1997年—世界を変えた金融危機」の竹森俊平

本山美彦の一連の書物は、ガンジーの言う「弱者の立場に立つ」あるいは「強者がつくる歴史に耐えて現場の歴史を書く」という立場から、正確かどうか不明なウェブからも広く引用がなされている。そこに描き出されるのは戦争や金融の世界における米国のまがま…

「世界経済同時危機」(原田泰)日本経済新聞

「世界経済同時危機」(原田泰)日本経済新聞 32〜33ページ 原田によれば、BIS規制の悪用が今回の金融危機の原因のかなり大きな部分を占めていた。 たとえば銀行がつくった資産運用会社Structured Investment Vehicle(SUV、ストラクチャード・インベストメ…

「構造改革論の誤解」( 野口旭+田中秀臣、東洋経済新報社)

「構造改革論の誤解」( 野口旭+田中秀臣、東洋経済新報社) 規制緩和という問題を考えるにあたってはきわめて重要な書物だ。(以下、同書から抜粋) 「バブル崩壊後の日本経済には、さまざまな構造問題の存在が指摘されてきたが、その多くは、じつは本来の…

どちらにもそれなりの理がある規制緩和派と批判派の言い分

内橋克人、本山美彦、伊東光晴、東谷暁といった規制緩和、市場原理主義、構造改革論に批判的な著書を読む一方で、岩田規久男、原田泰、竹森俊平、増田悦佐など、いわゆる市場原理主義者ではないが、いわゆる「経済学」にのっとった理論を展開する学者たちの…

逃げた中谷、血祭りの竹中

1月29日のJ-CASTニュースによると「かんぽの宿」オリックス売却問題 竹中平蔵氏と鳩山総務相が論争」という状況になっているという。そういえば竹中は久米宏の「テレビってやつは」や田原総一郎の番組にも出ていたようだ。ようするに彼は弁明に追われてい…

問題は本当にいずれは元にもどるのかということ

米国のバルブ景気こそが高品質・高付加価値のトヨタやソニーの生産販売計画を支えていたことが今や明白になった。 逆にいえば今回の世界的なバブル崩壊はトヨタの世界販売計画だけでなくソ連など共産世界の崩壊後、グローバリズムで繁栄を謳歌した資本主義社…

何が労働者派遣法の改良をはばむのか

「WEDGE 」09年2月号で東京大学の水町勇一郎准教授は「(国の労働政策にお墨付きを与える労働政策審議会は)正社員を代表とする連合や大規模産別の役員が中心だ。非正社員を容易に雇用調整の対象とすることができる法制度も、こうした一部の代表者の話し合…

「マーケット・メカニズム」に思想なんてあるのか—「資本主義はなぜ自壊したのか」評への補遺

中谷巌氏はその著書「資本主義はなぜ自壊したのか」で「マーケットメカニズムの思想」そのものを問題視した。「マーケットは経済活動における『民主主義』そのものなのである。そうした見事な民主主義の装いを持ったマーケットの仕組みがあるから、結果的に…

 二冊の経済本—「資本主義はなぜ自壊したのか」と「小さな政府を問い直す」

懺悔するかつての「規制緩和の旗手」 「資本主義はなぜ自壊したのか」(集英社インターナショナル)で、著者の中谷巌氏はソニーの社外取締役として欧米の経営者らと接した際の印象として「『エリートは一般大衆と違うのだから、高い報酬を受け取るのは当然だ…