手放しで勧める岩田規久男の「『不安』を『希望」に変える経済学」

〈追記〉題に「手放しで」と書いてしまったが、撤回する。それは著者の岩田氏がどうだというわけではない。学ぶべきところ多い真摯な経済学者だと思う。
 いずれ別に書きたいが、経済学者だからといって万能なわけではなく、ある問題(たとえば領土問題や人種差別問題)に対しては実にナイーブであったりする例を見聞したためだ。
 繰り返すが、岩田氏がそうだということではない。(2010.11.23)

(本文ここから)
 たとえば、通勤途中にある居酒屋のノボリ旗には「○○時まで飲み物半額!」とあり、またたとえば会社でよく出前を取る中華料理屋は値下げしたメニューを持ってくる。直接尋ねたわけではないけれど、路上に立つ八百屋や飲み屋の店員から何か必死な感じが伝わってくる。
 私の友人はさまざまな事情から、やむを得ず務めていた会社を辞め、職探しをしたが良いのは見つからず、時給900円の仕事に就いた。前のレベル(時給千数百円)の職は見つかりそうもないという。もしかしたら一生同じままかもしれない。というか、このまま同じままではないかと想像して暗澹とした気持ちで友人が生活している様子が伝わってくる。こういうのを「夢も希望もない」という。
 日本はいま強烈な円高に見舞われている。このままでは容易に80円を切ると私は予想する。円高、株安・・・さらにどんどん景気が悪くなる。ところが、政府は党代表戦で忙しく、何より中心的な役割を担わなければならない日本銀行・白川総裁は「どこ吹く風」程度の対応しかしていない。
 この円高が、ほかでもないデフレによって起きており、取り返しのつかない状況に陥りつつあることは、実はわれわれの方が実感として分かっているくらいだ。そして、白河氏の「円高には追加的に対応する」などという決意が何の効果も出せないことも、われわれは分かっている。彼が死にものぐるいになっていないことが自ずと見えてしまっているからだ、連銀・バーナンキ氏はじめ他国の通貨の責任者たちはみな必死だというのに・・・。
 私は「手放しで・・・」というのはできるだけ避けるようにしているが、本書は「手放し」で一人でも多くの人に読んでもらいたい。特に、政権の中枢にいる人たちには、これを読んで経済政策を変えてもらいたいと思う。
 
「現在の日本経済には、これ以上、日銀と日銀応援団からなる反インフレ目標・伝統的金融政策連合との論争を続ける余裕はなく、それは時間の浪費であるばかりか、日本経済に取り返しのつかないダメージを与えるであろう。いまや、1998年の景気後退以降、いまだに日本では試されたことのない唯一のデフレ不況対策であるインフレ目標の設定と、非伝統的金融政策を実施してみる時期である。構造改革(需要創出型構造改革は除く)や増税による財政改革は、デフレからの脱却の見通しが立ってからの話である。これが本書のもっとも重要な読者へのメッセージである。」23ページ
 民主党政権に対しては、
「50兆円の環境関連新規市場や150万人の環境分野の新規雇用は、社会主義国でもない国の政府が目標とすべきものではない」・・・「何が成長分野かは競争的な市場環境の下で市場が決めることであって、政府や官僚が決めることではない」(29ページ)。
 たったこれだけでも、現政権の経済政策への根底的批判となり得ている。

「不安」を「希望」に変える経済学

「不安」を「希望」に変える経済学