「エメラルド」ー過去を照らし、未来を開示するものとして
最新作を聴いて、そのアーティストの過去の作品群に新たな意味を見いだすということがある(と思う)。私にとってCoccoの「エメラルド」はそういうアルバムだった。
きっと飛魚のアーチをくぐって
宝島に着いた頃
あなたのお姫様は
誰かと腰を振ってるわ
日本のメジャーシーンではあり得ないほどの暗い予兆をうたった「強く儚い者たち」は、Coccoというアーティストの存在を強烈に刻みつけたが、同時にこの曲には「はるか彼方」(海の向こう、というべきか)をイメージさせる神話や伝承めいた雰囲気が強く漂っていた 。
このような残酷であからさまな歌を、二十歳前後のやせこけた女が両手を痙攣させるようにして歌う。この女は何者なのか、と問う前にすでに「Raining」という、「おさげを切り落とし」、「髪がなくて今度は腕を切った 切れるだけ切」って、「血にまみれて踊っていたんだ」と、揺れる心を制御できない等身大(それは無意識で演じられたものかもしれないが)の姿が同じアルバム(「クムイウタ」)で提示されていた。
が、次の「ラプンツェル」になると、裏切った男を「けもの道」に追い込み、「苦しいでしょう 震えるでしょう」と迫ったり(「けもの道」)、「私さえいなければその夢を守れるわ」「あなたさえいなければこの夢を守れるわ」と、「愛」と「憎しみ」がせめぎ合ったり(「樹海の糸」)ーと、憎悪や怒りが強まり、彼方を見つめる視線は弱まるとともに、「等身大」というより「演じている」という感じが強まっていく。(とはいえ「樹海の糸」には、彼女特有の神話的世界が形成されていて見事だが。)
そして、とりあえずのラストアルバムとなった「サングロース」は代表曲「焼け野が原」に代表されるような終末感の色濃い作品となった。
こう見てくると、「ラプンツェル」あたりで、Coccoは憎しみ、怒りといった「ノン」の方向を追求するあまり自らを傷つけたか、あるいは、そういう表出のしかた(ぶっちゃけ「売り方」といってもよいが)に行き詰まりを感じたのではないかと推測される。彼女自身とCoccoのイメージがずれ、苦しくなっていったのではないだろうか。
実は、そういうことまでも想像たくましくさせたのが最新作の「エメラルド」だった。これが彼女がやりたかったことであり、生身のCoccoの作品であることが聴いていてよく分かるからだ。
しかも、「絹づれ」(前アルバムに収録。本アルバムにはウチナーグチで歌われた「絹づれ〜島言葉」が収録されている)には、あの「強く儚い者たち」に漂っていた「はるか彼方」な感じがよみがえり、それが「憧れ」にまで昇華されている。
彼女の新たな可能性が開示されたという意味での傑作なのだと思う。
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