営々と続く官僚主義との闘い—「恐慌は日本の大チャンス」(高橋洋一著、講談社)

【追記】高橋洋一氏ふくめ主流派経済学者が、社会主義イデオロギーや革命という論点を無視して、日本の官僚主義の非効率さを非難するロジックをそのまま社会主義国に当てはめて、「資本主義の方が効率的なのだから社会主義より高度な体制だ」とするのは粗雑な考え方だと私は考えている。
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 高橋氏の著作は、既出の長谷川幸洋氏(東京新聞記者)の著書とあいまって何冊か読んできた。この国で最も厳しい官僚主義批判をしてきた人物と受けとめている。元官僚(財務省)ゆえ、生々しさでも他の追随を許さない。
 温泉施設での窃盗事件によって大学を解雇され表舞台から姿を消し(これについては特に論評の必要はないと考える)、論壇復帰直後の著書だそうだが、鳩山政権誕生前に書かれた文章が多くを占め、そこでは「労組依存」で「過去官僚(官僚出身の議員」が少なくない民主党政権に「どこまで本格的な公務員改革ができるか疑問を抱かざるを得ない」などと疑問を投げかける内容となっている。
 そしてその後の動きは、言うまでもないことだが、高橋氏の予想通りの展開となった。小泉、安倍政権において竹中平蔵の「懐刀」だった氏の目には、小泉政権(改革の進展)→安倍政権(停滞、挫折)→麻生政権(官僚による大々的な巻き返し)→鳩山政権(巻き返しの完成)とでも映っているのではないだろうか。
 私自身、「政治主導」と「官僚主導」との闘いの構図で見たとき、上記のように事態は進展したと感じている。民主党に政権が交代したところで、この問題についていえば流れは大きくは変わらなかったということではないかと思う。
 高橋氏の官僚批判、公務員改革の必要性の指摘はまったく正しいのだが、鳩山政権の体たらくをみて思うのは「道はるかなり」ということだ。
 一歩前進したかと思うといつの間にか巻き返され(本書でも改正国
家公務員法が政令一発でひっくり返され、渡辺喜美議員が自民党を離党するに至った経緯が描かれている、260〜262ページ)、世間からはいつの間にか忘れ去られていく。
 「官僚批判」に空しさがつきまとうのは、現象の一つひとつを叩いても類似の現象が出現し、どこまでいっても本質を変えるところまでたどり着けないがゆえだろう。
 小泉から鳩山に至る流れを見てつくづく感じるのは、官僚問題とは官僚組織を制御できない政治の問題であるということだ。どれもこれも政治家がダメだから官僚制度の弊害を正すことができない。「官僚主導」と「政治主導」とは実は対立概念ではなく、原因(政治が主導しえない)と結果(それゆえに官僚主導とならざるを得ない)なのではないかと思う。官僚批判は、これからもかまびすしく行われるだろうが、長く改善を見ることはないだろう。
 とはいうものの、やはりニヒリズムに陥らず、一つひとつに粘り強く対応していくしかない。高橋氏は本書でも、高速道路料金割引に関してETC搭載車に限定する理屈がまかり出てきたのは、国交省天下り団体である「高速道路交流推進財団」がETC助成金—「50億円」とはっきり指摘している—を仕切っており、さらに、ETC搭載車が増えるほど同省の別の天下り団体である「道路システム高度化推進機構」が潤うという複雑な仕組みになっていることを暴露してくれている。

恐慌は日本の大チャンス  官僚が隠す75兆円を国民の手に

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