優れた経済学者の冷静な指摘
竹森俊平は「1997年」において、住専問題で農林系金融機関が、自分たちに税金が投入されたら責任問題になるとして交渉の席に着かず、公的資金を投入しても経営責任を追わなかった事、それがのちの不良債権問題処理において公的資金投入に国民が忌避感を抱き、スムーズに処理できなかったことから「どこの世界に、金融システムの一部に過ぎない機関の言うことだけは全部要求通りに聞くという政府があるだろう」としている。
岩田規久男「『小さな政府』を問い直す」は、05年の耐震偽装事件の根本問題はマンションの建築主が瑕疵担保責任を果たすための保険に入っていなかったことだとする。「耐震偽装事件では、民間の指定確認検査機関が姉歯元建築士の耐震偽装をまったく見抜けなかったために、民間への確認検査を開放した98年度の規制緩和が問題になった。しかし、地方自治体の建築主事もまた見抜けなかったのだから、問題の本質は規制緩和にあるわけではない。根本的な問題は以下で述べる保険制度の不備にある」
原田泰「1970年体制の終焉」では、グローバルスタンダード適用反対の立場から金融システムや会計制度護持を訴える向きがあるが、「日本の企業会計で問題にされているのは、実質的な負債や保有する有価証券の価値の変動が開示されないといういことである。株式会社制度や行制度は、公衆から株や預金の形で資金を集める制度である。内実の分からない帳簿を見せて公衆から資金を集めることが、日本の美風であるはずがない」
これら三氏の鋭い指摘はグローバル経済の拡張や規制緩和を安易に批判して政治利用しようという考え方に対する強い警告となっている。こうした経済学—というか私でも分かる経済的知識—でもって冷静な指摘とともに主張を行うこれら経済学者のありようは時代を超えて貴重だと考える。
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