「世界経済同時危機」(原田泰)日本経済新聞


「世界経済同時危機」(原田泰)日本経済新聞
32〜33ページ
原田によれば、BIS規制の悪用が今回の金融危機の原因のかなり大きな部分を占めていた。
たとえば銀行がつくった資産運用会社Structured Investment Vehicle(SUVストラクチャード・インベストメント・ビークル保有の資産は
「銀行の帳簿から切り離すことができた。なぜ切り離すことができたのか理解できないことである。・・・SUVから得た利益は銀行の利益で、その利益をもたらした原因であるリスクを負担している資産は銀行の資産勘定から除外できるなどありえないことだった。ありえないことを、規制当局が認めたことが誤りだった。」
BIS規制そのものも、「景気が良い時には資産価格も高くなり、自己資本も増大し、貸出も証券投資も拡大する」これが逆なら逆に働き、「景気変動を増幅」してしまうという欠陥があったとし、好況期にはより多くの引き当てを求め、不況期にそうしないというルールをIMFは提言している。

日本は高付加価値の輸出型企業の低迷により大きな打撃を受けている。だが、原田はこう言う。
「しかし、だからといって、どうすればよかったのだろうか。日本の人口は減少し、一人当たりの所得もたいして増えない。将来のことを考えれば、海外の市場に依存するしかない。高い日本の賃金では安物はつくれないかから高付加価値の商品に特化していた。日本の企業は、海外に依存することなど様々な不安から、キャッシュを溜め込んでいた。需要の激減に対してキャッシュが不況抵抗力をもたらす。2007年までの外資ファンドが言っていたように、キャッシュを投資していたら大変なことになっていた。内需を増やせといっても、いまさら無駄な公共事業でもあるまい。これしかない状況の中での戦略だったというしかない。」「日本の民間企業は世界の(最底辺の10億人ではなく)最上辺の10億人に向けてモノをつくっていくしかなかった。」

おそらくこれこそが賛否まっぷたつにする論点だろう。「内需拡大」していれば現下ほど悲惨にはならなかったかもしれない。しかし、問題はどうやって内需を拡大するのか、ということだ。人間とし生活していける給与を支払えといっていたが、それで景気が上向くほどの需要が出るとは思えない。公共工事を増やすことには私も賛成できない。非建設的で無駄なことをしているとしか思えないからだ。

229ページ「あとがき」も重要なことが書いてある。
「経済自由主義は、普通の人々を豊かにするが、すべての人々に最低限の文化的生活を保障できるわけではない。経済の効率を低下させることなく、すべての人々の暮らしをできる限り守ることは政治の仕事である。しかし、それをするためにも、自由な経済制度が生む豊かさが必要である。」

世界経済同時危機―グローバル不況の実態と行方

世界経済同時危機―グローバル不況の実態と行方