ブータンブーム 仕掛け人はどこの誰?(妄想中)

 ブータンワンチュク国王夫妻が来日し、宮中晩餐会に出たり、福島や京都を訪問して20日に離日した。
 福島は相馬市の小学校などを訪ね、子どもや被災者を激励したという。http://www.asahi.com/national/update/1118/TKY201111180599.html
 17日には国会演説まで行っている。その内容は、東日本大震災の被災者にブータン国民が祈りを捧げてきたことに始まり、「日本の技術の卓越、偉大さ」、「アジアをリードしてきたし、これからもリードしてほしい」といった、一体なんでそんなに褒めてくれるの?という演説だ。11/17 ブータン王国国王ジグミ・ケサル陛下及び同王妃陛下(国賓)歓迎会 - YouTube
 演説の後半、「日本は国土開発の最大のパートナー」などとも話している。ちょうど王は結婚し、妻を帯同して外交を展開できる状況になり、被災して大変な状況にある日本に来ることがこれまでの経済援助への感謝を表すとともに、引き続き支援を要請するには好機と踏んだということなのかもしれない(これはあくまで想像)。あわよくば観光客誘致という野望もあったことだろう。
 そのユーチューブのコメント欄には
「日本国民にとって本当の友人国はどこなのか?今回の国王ご夫妻の­来日ではっきりとわかりました。いつかはブータン国に行ってみたいです」
「下向いて聞いてる(聞いてないのか?)白髪の国会議員つまみ出し­ておk(ママ)」
など、ブータン愛に満ちたコメントが多数。世はあっというまにブータンブームになったらしい。http://www.sponichi.co.jp/society/news/2011/11/22/kiji/K20111122002081880.html
 まあ、ブータンは昔から入国が制限されていたから、行ってみる価値はあるだろう。だが、どうにも違和感を感じるのは、何だって日本人は、こんなに国王とその妃が好きなのかということだ。(チャールズ皇太子とダイアナの結婚式の熱狂を考えると、どの国の庶民もそうなのかもしれないが。)
 「人柄が謙虚だ」といって感心し、日本賛美演説に感動し、相馬訪問に涙ぐむ。で、ブータンブーム爆発。エスカレーターを昇っていくような予定調和な展開に対し、「うまくできすぎている」とは考えないのだろうか。
 たとえば、なぜブータン国王は国賓なのか。アフリカや中南米の小国(けれどたいがいはブータンよりでかい)の元首はふつう国賓などにしてもらえないだろう。(単に、「国王」という身分だからなのか?)しかも、このような小国で、日本にとって死活的に重要な国のトップでもないのに、なぜ国会演説までやらせたのだろう。たしかに地震直後に義捐金を送ってくれたりした国ではあったとはいえ、いかにも特別待遇のように見える。
 この若い国王が何かを仕組んだということではないだろう。そうではなくて、日本側に、ブータン国王を政治的に活用したいという意図があったのではないか(最近なぜか、テレビの旅行番組でブータン行を相次いで見ており、もしかしたら、メディアも使った周到な仕掛けがあったのかと疑いもするわけだが・・・)。
 その一つは、あの国会演説だろう。20年来の不況に苦しんでいるところに壊滅的な大地震と放射委物質の大拡散という、没落への決定打(?)を2連発も食らって消沈しているところに、一国の王が「日本こそが世界のリーダーだ」とぶってくれるのだ。しかも謙虚に、耳に心地よく。歯が浮くような思いをするのはごく少数のヘソ曲がりで、多くの人が感銘を受け、一瞬だけでも自信を取り戻したのかもしれない。
 もう一つは被災地−正確には、放射性物質による汚染度の高い福島ーに国王が行き、地元の人々を激励することの政治的効果である。王が相手なら、ハチロさんの時のような失言を誘うような質問は決して出ない。当たり前だ、激励に来てくれたことにひたすら感謝し、何のアテがなくても明日から頑張らねばならない、と一人ひとりが念じることになる。それが「王」の効能というものだ。
 そして国王による福島行は、その「ありがたさ」によって、間違いなく、福島から何とか避難しようとしている人たちにさらに重圧を与えることになるだろう。「わざわざブータン国王夫妻が激励にきてくれたのに地元が頑張らないでどうする」と。これも「王の効能」である。
実は、おそらくちょうど同時期、福島・渡利の住人たちは「除染をしっかりやる」の一手張りの行政当局に対し、「除染はやってんだよ、だどど線量が下がらないんだよ!」「こどもだけでも!」と食らいついていたのである。YouTube(やれやれ、もう見れないようだ。)
 ブータン国王夫妻の福島行は今後、天皇や皇族が福島に対し、どのようなアクションを起こすつもりなのかという想像もかきたてる。本来ならもっと、天皇福島県民をエンパワーして回ってもおかしくないのではないかと思うからだ。もちろんそうなれば、県民はますます避難しづらい雰囲気になってしまうのだろうが…。
 おそらく被曝を恐れるがゆえではないだろう。そうではなく、福島だけ巡幸すれば、福島の放射能汚染のひどさを追認してしまうことになる恐れがある、とか、実際に4〜5年経って、子どもたちに甲状腺ガンが多発したら天皇の権威も傷つかざるを得ない、それゆえ、やすやすと行幸を組むわけにはいかない…とすれば、福島だけではなく、被災県すべてを回る行幸にならざるを得ないのではないか等々…。
考えすぎかもしれないが、ブータン国王の福島行は、今後、天皇や皇族が福島にどう対応するかを検討する「斥候」のような役割を果たすことにもなったのではないか。
 ところでブータンってそんなに佳い国なのか。wikiを見ると、「ネパール系住民への弾圧、拷問、難民化」の問題が掲載されている。ブータンブームな人は「現地に行って幸福を分けてもらいたい」と話すが、今時そんな夢みたいな国は存在しないのではないか。



追記:ツイッターで suzuky 氏「ガーディアンのブータン評、おもしろすぎ。ゲイ禁止、タバコは闇市場で購入可能、民族服強制に国民はぶーたれ、水力発電は本当は外国に売るためで別に環境保護じゃないなどなど。このすべてを「幸福指数」で正当化した新王様は超冴えてる(皮肉)だそう。Would Bhutan's happiness index work in Britain? | Vishal Arora | Opinion | The Guardian
というツイが流れてきたので、ブータン前国王提唱の「幸福指数」なるものをwikiで見てみた。
 これは「国民総生産」に対抗して「国民総幸福量」という概念を提起したもので、人口67万人から8千人を選び、2年ごとに「心理的幸福」「健康」「良い統治」「生活水準」等に関する72の指標について1人あたり5時間の聞き取り調査するそうだ。「国民総生産」によって示されるような金銭的・物質的豊かさを目指すのではなく、精神的な豊かさ、つまり幸福を目指すべきだとする考えから生まれたものだそうだ。
 しかし統治者がこんなことを提案していいものだろうか。「心の豊かさ」など説く前に、国民経済を良くするために内政・外交でがんばるのが統治者の義務だろう。何という欺瞞、おためごかしだろうか。
 この指数には気になるキーワードもある—「良い統治」。国民に対し、「国王の統治は良いですか悪いですか」と訊くのだろうか。我慢できなくなって「国王最低!」と応えたら、その人の「幸福」はどうなるんだろうね。
 しかもwikiによると、「地域別に聞き、国民の感情を示す地図を作るという。どの地域のどんな立場の人が怒っているか、慈愛に満ちているのか、一目でわかる」そうだ。要するにこれは体のよい思想調査ではないか。「怒っている人の地域と立場」が特定できれば抑圧も簡単にやれる。まあ、国王の体制にとっては「幸福」なことなのかもしれないけれど・・・