あまりに観念論的な・・・的場昭宏「マルクスだったらこう考える」(光文社新書)

 的場昭宏氏の「マルクスだったらこう考える」には論理性を欠く記述が少なくない。
 たとえば64ページ「マルクス主義の現実的可能性」で
「では、なぜ資本のグローバリゼーションに対抗しなければならないのか。それは、資本のグローバリゼーションこそ私たちをとことん貧困にし、かつ非人間的な存在にするものだからです。」
 とあるが、なぜそうなのか十分に説得力ある説明がなされているとは思えない。
 同書をさかのぼってそれらしき箇所を探してみると、33ページ「グローバリゼーションがはらむ五つの矛盾」という節に行き当たるが、これはグローバリゼーションの問題点や疑問を羅列したに過ぎない。
 68ページ「多国籍企業が幅を効かす社会において、自国内の多国籍企業を保護するためには、自国の労働者や農民を保護するわけにはいきません」
 と批判しようとしているが、これも精緻な論証に基づいていないため、ある種の俗論にとどまっている。105ページでは、
「日本をはじめ、すでに中産階級化している先進諸国の労働者にとってショックな事実を言いますと、(グローバリゼーションのもとで)現在、賃金は世界中で低位に平均化しつつあります。」
 とするが、このように言い切ってしまっていいのか。いわゆる先進国の労働者にとってはそうかもしれないが、中国やインドの中産階級化する少なからぬ労働者にとっては賃金は高位に向かっているのではないか。
 筆者は世界全体から見ていないというか、これは「先進国中心観」とでもいうべきものではないだろうか。けっきょく「私たちをとことん貧困にし、かつ非人間的な存在にする」説得的な説明を見いだすことはできなかった。
 あるいは「グローバリゼーションが悪である」というのが自明の真理であるとでも筆者は考えているのだろうか。グローバリゼーションを常識的なものとしたり、積極的に評価する説も少なからずあるというのに。このような粗雑な決めつけは本書の説得力を著しく減じさせてしまっている思う。
 さらに105ページ
「逆説的に聞こえるかもしれませんが、グローバリゼーションは共産主義への移行のはじまりなのです。」
 というのも唐突きわまりない。ここでは先述の「賃金は世界中で低位に平均化しつつある」という誤った理屈が論拠の一つとされているだけに、いっそう説得力を欠くことになっている。ようするに観念論なのである。
 

マルクスだったらこう考える (光文社新書)

マルクスだったらこう考える (光文社新書)